加水なし・加温なし・循環ろ過なし・消毒なしの「源泉かけ流し」のこだわりは、今時珍しくありません。
熱交換器を導入して手間暇をかけながら、それでも特定の源泉の単独使用にこだわる温泉宿を訪れます。
4号源泉への熱い思い
かつては地元客の湯治利用が中心で、一般的には知名度の低かった、山形県の小野川温泉。
2000年代にJR東日本やJTBを巻き込んだ温泉街の活性化が奏功し、県外にもよく知られるようになりました。
「源泉かけ流し」ブームにうまく乗ったことも見逃せません。
2008年に掘削された5号源泉は泉温約35℃と低かったため、従来の4号源泉(泉温約80℃)と混合することで、加水なしのかけ流しを容易に実現することが可能になりました。
一方、アットホームな雰囲気の中規模旅館、うめやはコアな温泉ファンに向けた更なる差別化を図っています。
旧来の4号源泉のみを使用することで、小野川温泉でも特に「濃い」泉質を楽しめるのです。
というわけで、今回は日帰り入浴でお邪魔させていただきました。
うなぎの寝床のように細長い館内を進みます。
昭和38年の館内見取り図が掲示されています。
スキー乾燥室があったりして、時流に合わせた経営の工夫は先代から受け継いだ伝統なのかなと思ったり。
浴室は男女別の内風呂のみ。
圧倒的な湯の品質だけで勝負している、シンプルな浴室です。
80℃の4号源泉を熱交換器に通すことで、湯量を絞らず、加水せず、入浴に適した温度に下げています。
その過程で生じる排熱は、シャワーや暖房に利用されます。
5号源泉をあえて混合しない理由は、5号源泉が地下水の混入により成分が薄いという発想に基づきます。
熱交換と言うだけなら簡単ですが、浴室内にふわっと香る硫化水素臭のとおり、温泉成分が機器に与える影響があり、その維持管理は大変なものと推測します。
そこまでして4号源泉のかけ流しにこだわった結果、小野川温泉では随一の浴感を実現しています。
うっすら白濁した湯は、極上のとろみを伴います。
自己責任で飲泉してみると出汁の旨味が感じられ、たまごスープを飲んでいるかのようです。


おいしい温泉なるランキングがあるとしたら、間違いなく上位に食い込む名湯といえます。
まとめ
そういえば……
うめや旅館への宿泊者は、徒歩5分の外湯・露天風呂「小町の湯」を無料で利用することができます。

小町の湯, 小野川温泉, 米沢市, 山形県