温かい温泉に浸かっているときの幸福感は、何事にも代えがたいものです。
荒野を眺めながら幸せの意味を考えます。
シャーマン将軍の木
地球上で最も大きい生命体はクジラではありません。
Photo by Matthew Paulson - General Sherman Grove (2017) / CC BY-NC-ND 2.0
カリフォルニア州セコイア国立公園内に群生するセコイアデンドロンが最大の体積を誇り、特に「シャーマン将軍の木」は地上高84m、最大直径11mに及びます。
同州で毎年甚大な被害をもたらす山火事から巨木を保護するため、かつては人為的に消火活動が行われていました。
ところが逆に森林破壊が進んでしまったといいます。
実は、球果(松かさ)が火災の熱でしか開かないため種子が発芽せず、また下草が焼かれないことには生育に支障が生じて倒木の可能性があるのです。
素敵すぎる3つの露天風呂
国立公園から北へ100kmほど離れた田舎町、ベントン。
直線距離では近いのですが、シエラネバダ山脈を突っ切る道がなく随分遠回りさせられます。
ゴールドラッシュ期の廃屋の残る寂しい町に、温泉を提供するB&B(朝食付きの民宿)があります。


かわいらしい客室はやや清潔感に欠けますが、温泉を利用した床暖房を完備して設備は充実。
敷地内に貸切温泉付きのキャンプサイトなど10以上が点在し、湧出量の豊富さを示しています。
一般の宿泊棟のゲストには、荒野に面したオープンスペースに3つの露天風呂が用意されています(裸での入浴可)。
無味無臭、無色透明で特徴に乏しい泉質だからこそ、湯の圧倒的な鮮度の高さが際立ちます。
私が感激したのは、この機構。
60℃近い激アツの源泉を霧吹き状に投入することで冷却し、浴槽の湯を適温に保ちます。
安易に加水せず、シンプルな仕掛けでかけ流しを実現しているのです。
湯煙の先に荒野を眺めながら、セコイアの巨木を思い出していました。
人間の狭い了見では災厄としか思えない山火事が、世界最大の生物の命を支えています。
東洋思想の原点ともいわれる古代中国の書物「易経」が説くように、森羅万象、あらゆるものごとが人智を超えた意味、あるいは法則性を伴っているのかもしれません。
何が幸せで何が不幸せかを私たちが決めること自体、おこがましく思えます。
人間万事塞翁が馬。