アメリカ合衆国西海岸最北部のワシントン州に、伝統的な入浴方法を頑なに守る、老舗の温泉宿があります。
一部の客室では対照的に、最新式のジャグジー風呂に温泉が注がれています。
歴史的な浴場と温泉プール
ワシントンといっても合衆国の首都ではなく、州の方。
そのワシントン州のオレゴン州との州境になっているコロンビア川のほとりに、古くからの温泉宿があります。
ポートランドから1時間のドライブです。
1901年創業のHotel St. Martinは、1970年代に名称をカーソン温泉リゾートに変えましたが、今なお旧名が壁に大きく掲げられています。
その建物が事務所棟で、創業以来一度も建て替えられていません。
日帰り入浴も積極的に受け入れ、伝統的な入浴方法を守るバスハウスと、ミネラル・セラピー・プールと呼ばれる温泉プールの二つを、それぞれ別料金で利用できます。
こちらが1930年代に建造された浴場で、入口から男女別になっています。
時間は25分の入浴と25分のボディラップがセットの計50分と決まっており、料金は月~木曜30ドル、金~日曜35ドルと、決して安くありません。
ホテル宿泊者に対しても一切の割引がないのが残念な点です。
薄暗い浴場内は水着着用不要で、全裸で過ごします。
年代物の浴槽(クローフットタブ)が八つ並んでいます。
係員にそのうちの一つに入るように指示されますが、それ以降は基本的に放置なので、私は既定の時間を超過しても入り浸っていました。
浴槽の中で50℃の源泉(かけ流し)と11℃の冷水を、好みに合わせて混合します。
この泉質が秀逸で、雑味のないタマゴ臭が強く感じられます。
八つの浴槽のうち一つに冷水が貯められており、私は温冷交互浴を心行くまで楽しみました。
ボディラップとは、温まった身体を分厚いリネンでミイラ状にくるんでもらい、発汗により新陳代謝を高める伝統的な入浴方法です。
確かに気持ちの良いものでしたが、ラップはオプションでよい、というのが私の率直な感想です。
ミネラル・セラピー・プールは水着着用必須の屋内プールです。
塩素消毒の臭いがひどく、温泉ファンには無用の長物と思われます。
温泉プールの向かいの低くなったところに宿泊棟があり、これが今晩の寝床です。
ジャグジー付客室
全ての客室に温泉が引湯されているわけではなく、「with Hot Tub」と書かれたグレードの高い部屋を予約しておく必要があります。
ベッドルーム横のバルコニーに、二人が余裕で入れる巨大な浴槽が設置されています。
ずっしりと重い保温用のカバーを取り除くと、下から最新鋭のジャグジー風呂が現れます。
バルコニーのフェンスはガラスになっているので、湯船からも美しい森林を眺めることができます。
随分と高機能な風呂で、しばらくジェットの出方や加温の具合などを調節していましたが、悲しい現実に気付いてしまいました。
湯は確かに温泉ですが、貯め湯なのです。
しかも、硫化水素臭はほぼ感じられず、温泉成分を除去している、あるいはひどく加水しているものと推測されます。
消毒臭は感じられないのが救いです。
壁面にいかにも温泉の出そうなバルブがありました。
何やら注意書きがありましたが英語がよく読めなかったので捻ってみると、凄い勢いで湯が飛び出してきました。


しかし、湧出点で58℃の源泉がそのまま使用されているとはとても思えない「適温」でした。
そんな不満はありながら、誰に気兼ねすることもなく開放的な風呂に浸かること自体、アメリカでは有り難いことです。
美しい風景を眺め、これはこれでアリなのでは……という大らかな気持ちになってきました。
宿から帰る道すがら、事務所棟の前に源泉蛇口が設置されていることに気付きました。
これを捻ってみるとたちまち立ち昇る硫化水素臭に、バスハウスの記憶がよみがえりました。
いやいや、やはりカーソン温泉リゾートの真価は伝統的な浴場にあります。
宿泊棟の温浴槽については最新のジャグジーを体験するぐらいの低い期待値をもって訪れるなら、総合的には満足できる温泉宿といえるでしょう。
まとめ
Carson Hot Springs Resort, カーソン, ワシントン州, アメリカ
私の好み
- 種類宿泊、日帰り
- ルール男女別、水着着用、部屋風呂
- 塩素消毒有: 屋内プール、無: その他
- 泉温~50℃