メディシナーレス・デル・ペニョン温泉, メキシコ

メキシコシティ国際空港から徒歩わずか15分の街中に、天然温泉が湧いています。

メキシコ市民にすら忘れ去られようとしているその温泉は、スペインが破壊し尽くしたメキシコシティの前身、アステカ帝国・首都テノチティトランの時代から連綿と湧き続ける「聖なる湯」なのです。

メキシコシティ

飛行機が傾いて丸い窓がメキシコシティの街並みを映す時、私の心はだいたい塞ぎ込んでいます。

「また来てしまった…」

Mexico - Mexico City - view from Torre Latinoamericana

Photo by Harshil Shah – Mexico – Mexico City – view from Torre Latinoamericana (2017) / CC BY-ND 2.0

仕事だろうが遊びだろうが、メキシコシティはメキシコ国内移動において通過せざるを得ないメトロポリスです。

深刻な大気汚染とわい雑な街路を嫌う私にとって、できる限り長居は避けたい場所でもありました。

メディシナーレス・デル・ペニョン温泉

私はスペイン語ができませんが、おかしなことに温泉に関する単語だけは分かります。

Google Mapを眺めていて気になったのが、メキシコシティ国際空港に隣接するPeñón de los Baños(岩風呂)という街区です。

少し足を延ばしてみましょう。

Airport

空港第1ターミナルから地下鉄5号線Terminal Aérea駅へ向かう歩道。

地下鉄の駅を通り過ぎて、Puerto Aéreo通りを歩道橋で横切ります。

Bridge

排ガスと騒々しさで、早くも心が折れそう…

世界各国共通の傾向として、空港周辺は治安に問題があることが多いのです。

航空機の騒音のため地価が安く抑えられ、所得の低い層が集住しがち。

隣駅のOceania周辺は特に治安が悪いという情報もあり、日没後に出歩くのは厳禁です。

Street

路地に入ると、坂道になっています。

後々、この坂に重要な意味があることが分かります。

Entrance 1

薄汚れたアパートの一画に、Baños Medicinales del Peñón(岩の薬効風呂)と書かれています。

地名だけでなく、実際に銭湯があるようです。

Entrance 2

営業時間は朝6時~夜8時(9時退館)のロングラン、定休日無し。

料金は1人1時間215ペソ(約1,200円)。

Entrance 3

タコス1個5ペソ(約30円)の物価水準から考えると、あり得ない高額です!

入ろうかやめようか迷っていると、こんな掲示を見つけました。

Analysis

これは…メキシコ国立自治大学が発行した温泉分析書です。

天然温泉だという確信に至ったので、入湯することにしました。

Courtyard

アパートの中庭を通り抜けると、外界の喧騒が嘘のような静寂に包まれています。

この狭い空間に、崩壊の始まっている18世紀の礼拝堂がすっぽりと収まっています。

Chapel 1

内部の祭壇ではグアダルーペの聖母を祭っています。

なぜこんなところに?温泉とどんな関係が!?

Chapel 2

アパートの一階、がらんとした廊下の椅子に腰かけ、貸切風呂に湯が張られるのを待ちます。

その間に施設について調べてみると、驚きの事実が分かりました。

Corridor 1

アステカ文明が繁栄した14世紀、現在メキシコシティのある場所は、南北65kmの巨大な湖(テスココ湖)でした。

帝国の首都テノチティトランは、西岸近くに築かれた水上都市であったことは一般的に知られています。

1521年、スペインのコンキスタドール、コルテスによってテノチティトランは徹底的に破壊され、一方でテスココ湖は現在に至るまで埋め立てが進み、ソチミルコ周辺に一部が残るのみとなっています。

Corridor 2

そして私が空港から登ってきた坂こそ、当地がテスココ湖に浮かぶ離れ小島であったことの名残だというのです。

岩がちな小島には当時から温泉が自噴し、アステカ皇帝モクテスマ2世をはじめ、スペイン征服後は皇帝マクシミリアンなど皇族が保養のために通う「聖なる湯」であり続けました。

Bathroom

そんな歴史が、無秩序な市街地拡大に伴って市民のほとんどに忘れ去られても、温泉が枯れることはありませんでした。

メキシコの玄関口より徒歩15分、たった215ペソの日帰り入浴で、アステカの隠し湯を堪能できるというわけです。

Beds 1

さて、独房のように殺風景な小部屋に案内されました。

マッサージ(別料金)用のベッドが二つ押し込まれ、左奥にトイレがあります。

Tub 1

右奥に大理石張りの浴槽があり、黄味がかった源泉が貯められています。

湧出点の温度は46℃ですが、引湯される間に約42℃まで自然冷却されています。

Tub 2

貯め湯の状態では少しぬるいのですが、幸い自由に新湯を継ぎ足しできます。

排水口が浴槽底の栓しかないので、溢れないように加減しながらかけ流します。

Beds 2

色彩は特徴的ですが、浴感はさらっとして癖のない炭酸水素塩泉。

係員からは15~20分で湯から上がるよう言いつけられましたが、スペイン語が分からないふりをして55分まで粘ったところ、完全に湯あたりしました。

アステカの薬効成分は本物です。

Tub 3

メキシコシティの地中にはアステカ文明の歴史が沢山埋まっているのに、スペイン征服時代の「歴史的」建造物が覆い被さるように建設されたため、掘り返すことは事実上不可能です。

一方、地中から湧き出る温泉は、この場所の歴史をリアルに語り続けています。

Baños Medicinales del Peñón, メキシコシティ, メキシコ
私の好み[2/5]
日帰り入浴可 (6:00 – 20:00)
宿泊不可
公式サイトなし

コメント

  1. たけさん
    在米3年、駐在期間の終わりも見えてきました。温泉好きの皆さんと自分自身のために、何を残せるか考えていきたいと思います。

  2. たけ より:

    なんだ!もっと早くこのサイトと出会うべきだった。コロラドで12年医療マッサージ師をして暮らしているが温泉が趣味の私にとって至福のサイトだ。

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Ken Springfield